2012年8月21日火曜日

3号機核爆発説とガンダーセン氏の主張について


 福島第一原発3号機の爆発が核爆発であると思っている人は少数派だと思うので、 ほとんどの人には関係ない話でしょうが、3号機の爆発について情報を集めてみました。

3号機爆発について


 2011年3月14日午前11時1分に、福島第一原発3号機原子炉建屋が爆発した。東京電力、保安院、政府いずれも原子炉内の燃料棒が溶融し、燃料被覆管を構成するジルコニウムと水蒸気との高温下での反応を由来とした水素を含んだ蒸気が建屋内に充満して起こった水素爆発であったと推定している。アメリカ原子力委員会も同様である。

原発で原爆のような核爆発は起こらないし起こっていない


 核爆発(かくばくはつ,Nuclear explosion)とは、核分裂反応または核融合反応を連続して短時間に起こすことにより、生成される爆発現象のこと。

 以下は、原発は原爆とU235の濃度が違うので、原発で原爆のような核爆発は起こらないという話のリンク。

原発で核爆発は起こりません
原子力論考(52)原発が原爆にはならない理由

 以下は、建屋を吹き飛ばすほどの核爆発であれば、中性子線他がもっと大量に検知されるはずである臨界はそもそも起こりにくいという話のリンク。

3号炉を核爆発で(マテ

(質問が多かったので)【3月14日に3号機で核爆発は起きてない】
福島第一の放射線モニターで検知されず,
当時北風にもかかわらず,福島第二でも検知されていない.こんなに「こっそり」と核爆発は起こせない. http://plixi.com/p/97983710

(専門家には釈迦に説法,専門から遠い方には少し詳しすぎるかもしれない参考図)
水がたっぷりあって,燃料棒同士がほどほどに離れていないと臨界にならない理由.

独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)  炉心再臨界の有無の確認について
 3月14日15日に中性子が検知されたが、炉内から放出された、継続的な核分裂反応により発生する遅発性中性子先行核種から発生した遅発中性子を検知した可能性が高く、炉心の再臨界やプールの水位低下が原因となる可能性はほとんど無いと結論付けている。

即発臨界による爆発


 原発で起こりうる核爆発について、京都大学の今中哲二助教のチェルノブイリ原子力発電所事故の爆発の見解がある。
水素爆発か核爆発か? 今中哲二氏
以下に一部抜粋。
即発臨界と核爆発
熱中性子による即発臨界
 原子炉の制御が可能なのは、核分裂によって生まれる中性子の中に、核分裂より数秒から一分程度遅れて分裂生成物から放出される「遅発中性子」が含まれているからである。RBMK炉のような黒鉛減速炉での炉心での平均中性子寿命は1000分の1秒程度である。もしも、遅発中性子が存在せず、すべての中性子が核分裂の瞬間に発生する「即発中性子」であったならば、“制御のアソビ”がなくなって反応度がプラスになると原子炉はたちまち暴走してしまう。遅発中性子の割合はベータ値と呼ばれ、主として燃料の組成に依存する。事故当時のチェルノブイリ4号炉の場合、ベータ値=0.55%であった。
 反応度が大きくなってベータ値に達すると、即発中性子だけで臨界になってしまう「即発臨界」に至る。原子炉が暴走に至ったとは、反応度がベータ値を越えたことを意味している。

 福島第一原発3号機の爆発が、核分裂反応が連続して短時間に起こり爆発したのであれば、原爆のような核爆発ではないにしても、核爆発の定義に当てはまるかもしれない。wikipediaこちらの解説等によると、核分裂によって生まれる中性子には、遅発中性子と即発中性子があり、ウラン、プルトニウム等の核燃料物質が核分裂反応を起こしたときに発生する即発中性子のみで臨界状態に達する場合を、即発臨界と呼ぶらしい。それでも3号機爆発の際の中性子線他のデータによれば、爆発を起こすような臨界状態には到底至っていないと思われる。

ガンダーセン氏の主張


 アメリカの原子力発電事業で元管理職であったアーニー・ガンダーセン氏は、3号機の爆発は水素爆発だけではなく、3号機使用済燃料プールの燃料が即発臨界したことにより爆発した可能性があると主張している。

 ガンダーセン氏の福島第一原発の事故についてのビデオメッセージのうち、3号機の爆発について述べているのは大体次のとおり。
2011年4月26日付
2011年5月13日付
2011年8月21日付
2011年8月26日付
 ガンダーセン氏の、3号機が即発臨界による爆発の可能性があるとする根拠を要約すると以下のとおり。

1.3号機の爆発は1号機よりはるかに大規模で、「デトネーション(爆轟)」が起きている。1号機が爆発したときの噴煙の動きはゆっくりであり、3号機の爆発は大量のエネルギーがまっすぐ上に向かって放出され、上向きのベクトルが見られる。3号機の爆発では衝撃波が音速を超えており、爆発時に黄色い閃光が見えたのがデトネーションである証拠であり、水素爆発ではデトネーションは起こらない。
 3号機で水素爆発が起きたために、その衝撃波でプール内の燃料棒が動いて歪み、即時に核反応が起き、プール内のものを粉々にして上向 きの噴煙として噴き上げたと考えれば辻褄が合う。

2.ニューヨークタイムズが、2011年4月5日付で、米国原子力規制委員会(NRC)の報告書の機密事項の内容として、核燃料棒の破片が燃料プールから1マイル以上離れた地点で見つかったという記事を掲載した。後にNRCのスタッフから、恐らく使用済燃料プールにダメージは無く、原発敷地内で発見された放射性物質の破片は原子炉由来の可能性が高いとの報告があったが、納得していない。4号機の燃料プールからでないとすれば3号機プールから出たものである。

3.アメリカのハワイと西海岸でウランの微粉末、原発の敷地内でプルトニウムの微粉末が検出され、アメリカ北東部のニューイングランド地方でもアメリシウムが確認されている。これらの超ウラン元素が発見されたとすれば、福島原発で核燃料が損傷して揮発化した可能性がある。

4.3号機の爆発の噴煙に含まれるキセノンの同位体の比率を調べれば、燃料プールで即発臨界が生じたかどうか分かる。東京電力の使用済燃料プールの水分析レポートによると、ヨウ素131、セシウム137の濃度が高く、1,2,3号機プールの燃料が損傷を受けている。

5.3号機の燃料プールの画像を見ると、制御棒や燃料ラックが変形しているように見える。プール内で激しい爆発があったのは間違いない。

 ガンダーセン氏の即発臨界による爆発説の主張を個別に見ていく。

1.1号機と違い、3号機の爆発は激しく、大量のエネルギーがまっすぐ上に向かって放出され、衝撃波が音速を超え、爆発時に黄色い閃光が見えたデトネーション(爆轟)である。水素爆発ではデトネーションは起こらない。

 ガンダーセン氏は、2011年4月26日付のメッセージで、1号機と3号機の爆発時の映像を比較してこのように主張している。
以下にwikipedia広島大学HPよりデトネーション(爆轟)の解説を抜粋。
 爆轟(ばくごう、detonation)とは、気体の急速な熱膨張の速度が音速を超え衝撃波を伴いながら燃焼する現象である。
空気中に可燃性ガス(気化したガソリンなど)が充満して、これに着火する場合、爆轟が起きるかどうかは、①気体の濃度、②空間の密閉強度、③着火する際に加えられるエネルギーの大きさ、に左右される。

 燃焼には大きく分けてデトネーションとデフラグレーションの2形態があります。 
 デトネーション(爆轟:ばくごう)は、伝播速度が毎秒数キロメートルと非常に高速で、爆発的な燃焼です。混合気は衝撃波によって瞬時に過熱され反応します。 デフラグレーションは燃焼後に圧力変化がわずかであるのに対し、デトネーション背後の圧力は十数気圧まで上昇します(大気圧下でのデトネーションの場合)。 このため、炭鉱や化学工場などでデトネーションが発生すると大事故になってしまいます。 

 爆轟が起きると爆発の規模が大きくなるが、爆轟が核爆発に特有の現象であるような記述は無い。

 財団法人エネルギー総合工学研究所が1号機と3号機の爆発を解析している。
3号機爆発は「爆轟」
以下一部抜粋。
 三月十四日に東京電力福島第一原発3号機で起きた水素爆発は、衝撃波が音速を超える「爆轟(ばくごう)」と呼ばれる爆発現象だったことが、財団法人エネルギー総合工学研究所(東京都港区)の解析で分かった。
 水素は酸素と反応すると爆発し、空気中の水素濃度が18%を超えると爆轟現象が起きやすくなるという。3号機では最終的に五百四十キログラムの水素が発生。原子炉建屋最上階での濃度は約30%となり、注水停止から約三十二時間後の十四日午前十一時一分に爆轟が起きた。燃焼時間は〇・〇二秒で、建屋内の圧力は約六十気圧(通常は一気圧)に達し、建屋上部が吹き飛んだ。
 一方、1号機は冷却停止から爆発までの時間が約二十四時間で、炉内の燃料棒も3号機より少なかった。水素発生量は二百七十キログラムで3号機の半分となり、建屋最上階での濃度は15%にとどまった。このため爆轟は起きずに水素の燃焼は数秒間続き、建屋の壁が壊れて煙が噴き出した。

 1号機との水素濃度の違いにより、3号機はデトネーション(爆轟)が起きやすい状況となり、爆轟が起きたと結論付けている。水素爆発の濃度でデトネーションが起きやすい条件まで分かっているらしい。ガンダーセン氏の水素爆発ではデトネーションが起こらないとは何を根拠にした主張だろうか。

 2012年1月に東京電力が記者会見で3号機の爆発の原因について解答している。
 以下一部抜粋
 1号機が横に広がる爆発であったのに対し、3号機は縦に伸びる爆発だった点については、「原子炉建屋上部に溜まった水素の量がどれくらいだったのかということが爆発の規模の違いではないか」と述べ、加えて「1号機の原子炉建屋5階と3号機のそれとでは、1号機の方が構造としては薄い作りになっている」「3号機のほうが1号機に比べますと強い構造になりますので、それが爆発した際には、それなりの規模があるのではないかというふうには思います。」ことが影響しているとの見方を示した。

 東京電力は1号機、3号機とも水素爆発であると発表しており、各機の爆発の違いは、発生した水素の量と建屋の構造の違いによると回答している。 
 なお、この質疑応答の契機となった藤原節男氏は、3号機が核爆発した主張する理由の1つとして、爆発音が3回聞こえたことを挙げているが、どうやら福島中央テレビの元の3号機爆発の映像に複数回の爆発の音声が付け足されて出回っている動画を見て言っているようである。30km離れて撮影した映像に、秒速340mの爆発音が同時に収録されるはずがないということらしい。
福島中央テレビさんの受難

独立行政法人原子力安全基盤機構の福島第一原子力発電所3号機の原子炉建屋水素爆発に係る評価
 3号機の水素爆轟について詳細に検討されており、爆発の映像を分析して、実際の3号機の爆発現象から推定される飛散速度はいずれの結果とも整合的であるとしている。

 私見だが、1号機の爆発は威力が弱く、建屋の天井によって爆発の噴煙が遮られたために煙が横方向に伸びたのではないかと思う。1号機建屋の構造についてはwikipediaこの記事ぐらいでしか確認できなかったが、1号機の燃料取替床までは鉄筋コンクリート造、その上部の吹き飛んだ側壁は鉄骨メタルサイディング張り、天井は折り曲げたブリキの板の上に、軽量コンクリートを打ち、その上から防水シートをかぶせて砂をまいた『砂付きルーフィング』であるらしい。
 東京電力の、撮影日:2011年3月12日撮影日:2011年4月10日の写真や、ガンダーセン氏も引用していた海外のサイトの高解像度写真(撮影日:2011年3月12日右端が1号機)を見ると、1号機の爆発後に天井のコンクリートがそのまま崩落しているように見える。1号機の爆発は威力が弱く、天井のコンクリートを遠くまで吹き飛ばさずに、上方向に昇る噴煙も遮られたのではないかと思う。それが3号機との噴煙の形の違いになって現れたと考える。

2.燃料棒の破片が燃料プールから1マイル以上離れた地点で見つかった。4号機の燃料プールからでないとすれば3号機プールから出たものである。

 ガンダーセン氏は4月26日付ビデオで、核燃料棒の破片が原発から2マイル(3.22キロメートル)以上離れた地点で見つかっており、4号機のプールは健全なので、3号機プールから出たものであると述べている。5月13日付ビデオでは、アメリカ原子力規制委員会(NRC)の報告書にあるように核燃料の破片が2キロ先で発見されたと述べ、破片の飛散した速度について計算している。その後、8月21日付のビデオでは、数日前のNRCの会議の議事録を紹介しており、議会への「使用済燃料プールが損傷していないという報告に驚いている。メディアの報告では、1cm以上の燃料棒の破片が、燃料プールから1マイル以上離れた場所で見つかったと聞いたが。」という電話質問に対し、NRCのスタッフが「今までに敷地内にいろいろな形態で散乱している放射性物質は、原子炉(複数)内部から来たものと思われる。」と回答したと言っている。このNRCの見解にガンダーセン氏は懐疑的で、もし燃料の欠片が原子炉由来であるなら、事態はもっと恐ろしいものであると述べている。8月26日付のビデオでは、燃料棒の破片が燃料プールの1マイル先で見つかったという情報は、4月5日付けのニューヨークタイムズの記事から得たもので、NRCの機密事項であったと述べている。

その4月5日付けのNYTの記事
according to a confidential assessment prepared by the Nuclear Regulatory Commission.
 NRCの機密査定によると、と書かれている。
The document also suggests that fragments or particles of nuclear fuel from spent fuel pools above the reactors were blown “up to one mile from the units,” and that pieces of highly radioactive material fell between two units and had to be “bulldozed over,” presumably to protect workers at the site.
 その文書は、原子炉の上の使用済燃料プールの燃料の断片または粒子が、原発から1マイルの距離を吹き飛び、高線量の放射性物質の欠片が2つの原発の間に落ち、敷地内の作業員を防護するためブルドーザーで覆わなければならなかったことを示唆している、と書いている。
日本では、原発敷地内で燃料棒の欠片や破片が発見されたという情報はどこからも発表されていない。

4月7日付のNYTにも似た記事が掲載された。
said the executive, who spoke on the condition of anonymity to protect business connections in Japan.
 日本での取引関係を守る為に、匿名を条件に答えた幹部が言うには
Broken pieces of fuel rods have been found outside of Reactor No. 2, and are now being covered with bulldozers, he said.
 「燃料棒の破片が原子炉2号の外側に発見されており、現在ブルドーザーで覆われている。水素爆発によって放出した使用済み燃料プール内の燃料棒の破片かもしれない。」
 この記事も燃料棒の欠片をブルドーザーで覆っているという同じような記述がされている。しかし、匿名を条件に答えた幹部とは誰のことだか、真偽がはっきりしている情報なのかよく分からない。これが4月5日付の記事と同じ情報源なのだとしたら、これを根拠に今でも正しい情報だと言えるだろうか。

 ガンダーセン氏が引用していた、NRCのスタッフが、敷地内の放射性物質は燃料プールではなく原子炉由来のものであると回答した会議の議事録。
以下P61あたりから一部抜粋。
most of the deposition that has been reported to date appears to have come from the reactors
 「今までに発見が報じられているかけらのほとんどは、原子炉(複数)内部から来たものと思われます」

There are -- there's great difficulty in units one, two and three in actually observing the fuel that's in the spent fuel pools and what there's some level of confidence that the fuel in the spent fuel pools has not been damaged based on looking at the ratios between various radionuclides and by looking at that, you can determine the age of the fuel.

And when I say age, I mean the amount of time that it's been out of the reactor. You can you evaluate the various isotopes and determine whether that fuel was actually being irradiated in the reactor at the time that it was melted and released or whether or not it was in the spent fuel pool and was older fuel.

 「確定的であるとは言えないが、敷地内に飛散した放射性物質の核種や同位体の比率を分析して、それが使用済燃料プール内にあった古い燃料かどうか、または放出された時に原子炉で照射されていたかどうかを判断できる」、というような、放射性物質がプール内のものではないと判断した具体的な理由などを答えている。
 このように回答したということは、敷地内の放射性物質がプール内の燃料棒由来ではないと言っているだけではなく、敷地内で1cm以上の燃料棒の欠片が発見されたという部分も否定したと考える方が自然ではないだろうか。原子炉の圧力容器、格納容器が爆発したわけではないのだから、粒子状ではない1cmの燃料棒の欠片が原子炉から爆発飛散することはありえない。ガンダーセン氏がこのNRCスタッフの説明に納得しない理由がよく分からない。

 原発周辺のプルトニウムの濃度については東京電力や文部科学省が下記の発表をしている。
・検出されたプルトニウムの濃度は過去の大気圏内核実験において国内で観測されたフォールアウトと同様のレベルである。
・プルトニウムの同位体の放射能比からみて、今回採取された5点のうち2点のプルトニウムについては過去の大気圏内核実験に由来するものではなく、今回の事象に由来して放出された可能性がある。

文部科学省 プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について

 2012年2月にNRCの事故当時の議事録が公開され、WSJが、米国の80キロ避難設定の根拠は4号機の燃料プールに水がないという誤情報によるものだった、というNRC批判の論調の記事を掲載した。

アメリカ原子力規制委員会の議事録が公開されてわかったこと

 事故当時の3月頃は色々と情報が錯綜しており、NRCも日本政府や東電よりは正確な情報を把握していなかったということである。それ自体は無理もないことだが、やはりその頃にNRCが敷地内に燃料棒の欠片を発見したという、日本とは別の独自の情報を得ていたということは考えられないのではないか。

3.アメリカのハワイと西海岸でウランの微粉末、原発の敷地内でプルトニウムの微粉末が検出され、アメリカ北東部のニューイングランド地方でもアメリシウムが確認されている。これらの超ウラン元素が発見されたとすれば、福島原発で核燃料が損傷して揮発化した可能性がある。

 ガンダーセン氏の4月26日付ビデオの、上記の発言時に写っていたのがこのページ
 情報元を辿っていくと、ECRRのクリス・バズビー氏のレポートだった。
 このレポートは既に検証されていて、過去の核実験のフォールアウトによるものだったり、ウランであれば火山の噴火が原因で、過去に上記報告の量より多く検出されているらしい。
太平洋のウランは福島由来か?あるいは火山が結構すごい件
 アメリシウムなどの超ウラン元素も、プルトニウムの娘核種なのでこれで説明が付く。これらが過去と同程度の量検出されたからといって、それが福島の事故によるものであるとは言えない。

4.3号機の爆発の噴煙に含まれるキセノンの同位体の比率を調べれば、燃料プールで即発臨界が生じたかどうか分かる。東京電力の使用済燃料プールの水分析レポートによると、ヨウ素131、セシウム137の濃度が高く、1,2,3号機プールの燃料が損傷を受けている。

 ガンダーセン氏は4月26日付ビデオで、噴煙のキセノンの同位体の話をしている。福島原発事故の放射性プルームの核種分析は以下のようなものがあると思うが、キセノンの量のデータはあるものの、同位体比の比率の違いによる分析まではよく分からなかった。いずれにしても、これらのデータを元に3号機の爆発がプールの爆発であったと結論付けている専門家はいないようである。ガンダーセン氏もその後この点には言及していない。

日本分析センターにおける空間放射線量率と希ガス濃度調査結果⑲
高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況(4月23日時点)
核実験監視用放射性核種観測網による大気中の人工放射性核種の測定

ガンダーセン氏は8月26日付ビデオで、東京電力が8月19日と20日に公表した新たな計測データにより、福島第一原発の原子炉1号機、2号機、そして3号機のすべての使用済み核燃料プールにおいて、極めて高いセシウム137とセシウム134の数値を示している、と述べている。

平成24年1月20日の原子力安全・保安院の使用済燃料プール等に関する検討
P5の各号機の使用済燃料プールのスキマサージタンク水と地下たまり水のセシウム、ヨウ素の濃度を比較すると、採取日に1月程度の違いがあるとはいえ、どちらも地下の溜まり水の方が濃度が高い。これで相対的にプールの水の濃度が高いといえるだろうか。そもそも各号機の全ての燃料プールが高い数値であるというが、爆発の映像を見て1号機は水素爆発で3号機は即発臨界による爆発と言っていたのに、同じようにプールの使用済燃料が著しい損傷を受けているとは、言っていることが矛盾しているのではないか。

 前出の東京電力の核爆発についての質疑応答でも、空気中に放出された放射性物質がプール内に溶け込んでいると回答している。
 以下一部抜粋。
 「プールの水の分析では、セシウムが10の5乗ベクレル/立方センチメートル程度検出されているが、これは空気中に放出された放射性物質がプール水に溶け込んでいるものと推定している。使用済み燃料が破損していればもっと濃い状態である」ため、「被覆管等が損傷して中身が出ているというような状況ではない」とし、これを理由に「使用済み燃料プールに貯蔵されている使用済み燃料については、ほぼその状態を維持している」との見解を示した。

 東京電力が福島第一原子力発電所事故における放射性物質の大気中への放出量の推定をしている。
 P12の建屋爆発時における放射性物質の放出量の評価結果では、爆発による放出量は全体の放出量と比較して相対的に少なく、更に3号機の爆発による放出量を1号機の爆発による放出より少なく評価している。
 以下理由の部分を抜粋。
 爆発時点では、MP-3 付近、MP-4 付近のモニタリングカーにて空間線量率を測定していたが、北西の風が吹いており、空間線量率に大きなピークは現れていない。プルームの流れる方向に対し MP が風上にあっても多量な放射性物質の放出があれば直接線の影響で、MP の線量率にピークが現れる場合もある。しかし、3号機の建屋爆発では、北西の風が吹いており、空間線量率に大きなピークは現れていないので、多量な放射性物質の放出があったとは考えにくい。

 仮に即発臨界による爆発であれば、爆発時に大量の放射性物質の放出があったはずである。

5.3号機の燃料プールの画像を見ると、制御棒や燃料ラックが変形しているように見える。プール内で激しい爆発があったのは間違いない。

 ガンダーセン氏は5月13日付ビデオで、東京電力の2011年5月8日撮影の3号機プール内部の映像を見て上述のようにプールの印象を述べている。

 この映像では大量のがれきに隠れて燃料ラックの一部が映っているように見えるが、はっきりと確認できなかった。その後、東京電力の2012年4月13日撮影の映像が公開された。
東京電力の説明資料を見ると、瓦礫の下で燃料ラックが原形を留めているのが確認できる。プール内で原子炉建屋を吹き飛ばすほどの即発臨界による爆発があったとして、アルミニウム製(P4)のそれほど厚みの無い燃料ラックが、これほど原形を維持していることは考えられないと思う。氏はこの最近の映像を見ているのだろうか。

その他の説など

 3号機の建屋の鉄骨は激しく変形しており、水素爆発では鉄骨を溶かすほどの温度にならないという説があるが、折れ曲がっているだけのようにも見えるし、1号機も程度は違うが鉄骨が変形している。

 3号機の爆発の際のキノコ雲が核爆発のものと同じだから核爆発だと言っている人がいるが、キノコ雲は核爆発でなくても発生する。
 キノコ雲(キノコぐも)は、大気中での熱エネルギーの局所的かつ急激な解放にともなう上昇気流によって生じる積乱雲の一種。
急激な上昇気流を起こす熱源としては核爆弾や大量の爆薬の爆発、大量の燃料の急激な燃焼(爆燃)、火山の噴火などがある。

 熱気の塊が急速に出現→火球は温度が高いため急上昇すると共に冷却
その際、気化した物質や周囲から吸い込んだ水蒸気が凝結して雲の塊となる。
火球が上昇した後の地表付近では、気圧差から大量の空気が流入し、破砕物や水蒸気を含んで上昇するため、火球につながる雲の柱が生じる。それが上空に達すると冷却される。
その後水平方向に粒子が拡散し始め、かつ重力により地表に引き戻されて、全体としてキノコ型を呈することになる。

 参考に核爆発以外のキノコ雲と思われる動画。
市原市コスモ石油爆発のキノコ雲
霧島連山(新燃岳)最大の爆発的噴火(噴煙の高さ2000m)

 あとはこのまとめを見ておけばいいと思う。
「キノコ雲だから核爆発」 #ワーワー教 のお勉強の成果

まとめ

 ガンダーセン氏の主張とそれに対する反論を要約する。赤字がガンダーセン氏の主張で、青字がそれに対する反論。

 1号機と違い、3号機の爆発は激しく、水素爆発は起こらないデトネーション(爆轟)が起きている。
 デトネーションは水素爆発でも起こる。

 3号機プールから出た燃料棒の破片が燃料プールから1マイル以上離れた地点で見つかった。
 その情報元のアメリカ原子力委員会(NRC)が既に否定しており、敷地内の放射性物質は炉心由来であると推測している。

 アメリカ各地やハワイでプルトニウムなどが検出され、福島原発で核燃料が損傷して揮発化した可能性がある。
 過去の核実験のフォールアウトや、火山の噴火が原因で、過去に上記報告の量の同程度以上が検出されている。

 使用済燃料プールの水のヨウ素131、セシウム137の濃度が高く、1,2,3号機プールの燃料が損傷を受けている。
 プールの水の放射性物質の濃度は地下のたまり水より低く、原子炉から放出された放射性物質がプール水に溶け込んでいるものと推定される。

 3号機の燃料プールの画像を見ると、制御棒や燃料ラックが変形しているように見えるので、プール内で激しい爆発があった。
 最近の3号機プール内の映像では、燃料ラックは原型を維持していた。

 以上によりガンダーセン氏の主張は即発臨界の根拠にはならないと思われる。

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